Column

1.グルーブするにはどうしたらよいのでしょう?


こんな実験をしてみよう。

さあ、ピアノの前に座りましょう。
アコースティックピアノを使用してください。
電子楽器はこの実験にふさわしくありません。 空気を伝わる音を感じてほしいからです。

この実験は子供の遊びのようなもの、純粋な気持ちで臨んでください。

最初に一番低いほうの
一番高いほうの を選び
同時(なるべく正確に)に押し下げます。
(ピアニストの方は和音なども試してみると良いでしょう。)

さて、同じ動作なのに高いほうが先に鳴るように聴こえませんか。

それでは次に、
低いほうの を少しだけ早めに押える、
または高いほうの を少しだけ遅めに押えてみる

というのをやってみましょう。

さあどうでしょうか。
こちらのほうが同じタイミングで鳴っているように
聴こえませんか。

別の表現をすれば
「安定感」、「どっしり感」、「やさしさ」がありますよね。
逆に言うと最初のほうは
「緊張感」、「不安感」、「鋭さ」を表現しているともいえるでしょう。

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ピアノを例にしましたが、
バスドラム と スネアドラム、バスドラム と ハイハット、バスドラム と シンバル、
コントラバス と バイオリン、チューバ と フルートなど、
要は低音を担当する楽器と高音を担当する楽器との関係がこの状況にあてはまリます。

そしてこの実験の結果として推測されるのは、
楽曲の中で特にリズムを担当する楽器は低い音は早めに、高い音は遅めに音を出している状態が、
音楽を聴いている側にとっも、最も「安定感のある」、「気持ちのいい状態」
だということが言えるでしょう。

もちろん早めに遅めにといっても微々たる時間の差ですから、
演奏者が0.0何秒遅れとかいった時間的コントロールをすることは不可能ですし、
仮にこういった操作ができたとしても音楽そのものへの集中力を欠き、
かえって不自然な音楽になってしまうのではないでしょうか。
むしろ 「ゆったりと」 「するどく」 「やわらかく」 「かたく」 など
歌い方によって変化をつけるのがより自然でしょう。

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ドラムセットというのは高い音から低い音まで担当しています。
さらにそれぞれの楽器は、音の出方、呼吸の仕方(ニュアンス)が違います。

こんどはドラムセットを使って先ほどと同じ実験をしてみましょう。

ドラムセットは基本的に音量が大きい楽器なので
叩いている本人には結構聴き取りにくいものです。
他の人に叩いてもらって少し離れたところから聴いてみるのがよいでしょう
(耳栓をするという手もあります)。

楽器の組み合わせはかなりたくさん考えられるはずですが色々試してみてください。

どうですか、同じ結果になったと思います。

たとえ
両手同時に、または手足同時に叩いたとしても、楽器の組み合わせによって
聴感上同じタイミングには聞こえないことがあると言う事です。

またそれ以上に、安定と緊張の表現がこういう事によっても可能だということも
忘れないでください。

ただ、このような事を知識としての認識なしに自然体でやってしまうドラマー
(他の楽器でも)も多く存在しています。
すばらしく直感的、本能的な耳をもって生まれたのでしょう。
私から見ればうらやましい限りです。

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私は以前、手順、足順、譜面にとらわれ過ぎ、ただ叩く順序さえ合っていれば、
そのリズムは完成と思っている時期がありました。
(まあこれだけでも正確にやろうとしたら大変なんだけど・・・・・・)

例えば
右手と左手にまったく同じ動きをさせるなどの手足の正確な運動は、体操をしているときの気持ちよさと同じで、
ドラムを叩いている本人だけが気持ちいいだけなのに、
「それが聴いている人にとっても気持ちの良い音やリズムだ」と錯覚してしてしまうものです。
しかし、そういう場合に限って、ほとんどのところ実際に出る音は、
気持ちの良い音やリズムには程遠いものだったりするのですが……。

これは手順、足順、譜面、練習台等の情報が氾濫している、現代のドラマーが陥りやすいことのひとつと言えます。

これでは譜割が同じでも様々なグルーブが存在するという事に気が付かないし、
最悪の例では打ち込みと生演奏の違いが本当に時間的に正確かどうか、
といった事でしか検証できないことになってしまいます。

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さて、良いグルーブを作る要因の一つを提案しました。
分析的には必ず 「バスドラム に比べ、ハイハット・スネアドラム・シンバル は遅く」、
「足の出しているリズム に対して、手のリズムは 遅れて叩いている」 といった感じです。
(やっと具体的な説明を出しましたが。)

これは不思議な事ですが、これだけでも出来ている人は
多少リズムがよれよれになっていても不自然さを感じさせません。
ツボを得ているとはこういう事なのでしょう。

気持ちいいグルーブとは、
気持ちいいリズムとは、
歌うように演奏することとは、
気持ちのいい音を出すには・・・・・・、

必ずしも
楽器のクオリティーを上げる事でも、
理論を勉強する事でも、
うんちくを貯めこむ事でも、
著名演奏家の動きを真似してみる事でも、
0.0何秒遅れとかいった時間分析をする事でも、
ない事がおわかりだと思います。
これらの事柄はしばしば余計な先入観を生み音楽の本来の姿をねじ曲げてしまいます。

自分のありのままをさらけ出すことはやはり不安で恥ずかしいものです。

例えば、「こういう音楽はこうするものだ。」といったような形で音楽をとらえること、
自分をある型にはめることは確かに気分的には心強いでしょう。

しかしそれをいくら追求したところで、本当のあなたの音楽だと言えるでしょうか。

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この実験は子供のころの些細な発見のようなもの。
純粋な気持ちの自分に立ち返り、自分の音に、そして人の音によく耳を澄ましてみれば、
「グルーブするには」、「気持ちいい音を出すには」 といった問題は自然と解決する方向へ行くはずです。

あせらずにじっくり取り組んでみてください。
耳を使っての試行錯誤はいろいろな発見があって結構楽しいものです。
気持ちの良い音を出すために練習するのではなく、自分の気持ちの良い音を聴くために練習してみましょう。

そして恥をかくことも恐れないこと、恥をかくことは大きな進歩につながります。
悔しい思いもいっぱいしてください、大きな喜びが待っている事でしょう。

音楽(ドラム)の演奏は自然であってしかるべき。
自然を体感、表現できる人は、たとえそれが変拍子、奇数連符、フリージャズ、現代音楽などの実験的な試みであったとしても
人の心に伝わるものになるのだと私は思っています。

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引用文献

溝部国光著 正しい音階(音楽音響学)日本楽譜出版社

低音のリズム

ここでちょっと低音
バスドラムやその他各種低音楽器の音
の立ち上がりという問題に触れておく。
このことは、音楽演奏の実際において大変に重要な問題であるから。
小さな太鼓は叩いた瞬間にすぐに音量のピークになるが、
大太鼓の場合は叩いてから音量のピークに達するまでが遅い。
すなわち、立ち上がりが遅い。

したがって、大太鼓は小太鼓に比べて
その分だけ早く叩かないとリズムが合わないわけである。
わが国の音楽隊は諸外国の音楽隊に比べて、
昔からマーチのリズムが悪いといわれてきたが、
その原因のひとつは低音にあったのである。
低音が遅れると合奏全体がだらけた感じになる。
現存全国各地にたくさんのバンドがあるが、
この点について大いに注意を必要とするところは多い。
諸者各位に対して演奏の初歩的なことまで申し上げるのは
まことにしつれいであるが、
具体的には
小太鼓と大太鼓が見かけ上で同時に打ち下ろしたのでは大太鼓の音は遅れる。
小太鼓が打ち下ろす瞬間には、
大太鼓は打ち終わってその反動でポンとはね上がるという具合にすれば
両者のリズム は一致する。

小太鼓=スネアドラム
大太鼓=バスドラム

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